新設住宅着工数の減少や資材価格の高騰、オンライン化の進展など、刻一刻と変化する厳しい環境に置かれている昨今の住宅業界。この状況下で多くの住宅会社、特に中小の工務店やハウスメーカーは、集客効率の向上という新たな課題に直面しています。価格競争から脱却し、顧客から「選ばれる企業」となるためには、自社の「らしさ」を明確にし、それを効果的に発信する「ブランディング」が不可欠です。
このページでは、工務店・ハウスメーカーのブランディング戦略について、その本質から具体的な進め方、成功のためのポイント、注意点などを解説しています。
ブランディングとは、特定のターゲット層の人々に自社の住宅とその独自の価値を認識してもらい、最終的に選んでもらうことを目的とした活動のすべてを指します。短期的なマーケティング施策とは異なり、ブランドに対する信頼や愛着を醸成し、顧客ロイヤルティを高めることを目指すのが特徴です。
ブランディングにおける一つの成功は「〇〇といえば自社」という市場顧客からの認識を得ること。ファッション分野で言えばルイヴィトンやエルメスといったハイブランドが説明不要で共通のイメージを想起させるように、独自の価値を築き上げるのが目標です。
この「独自の価値」は住宅業界においても確立可能です。ブランドの土台となるのは、まずは「他社とは違う、自社ならではの強み」だと言えます。
住宅業界がブランディングを必要とする背景には、以下のような複数の課題が存在します。
ブランディングが重要になっている理由の一つに市場の縮小が挙げられます。日本の新設住宅着工戸数は、少子高齢化や人口減少に伴い、2006年のピーク以降減少傾向。今後もさらに縮小が予測されています。この縮小する市場で生き残り、発展していくためには、単に住宅を建てるだけでは不十分です。ブランディング戦略を強く意識して、顧客に選ばれる存在となる必要があります。
価格競争の激化も住宅業界の課題。スマートフォンの普及により、顧客は容易に多くの住宅会社の情報を比較できるようになり、他社との差別化ができていないと興味を惹くことが難しくなっています。ブランディングは過剰な価格競争から脱却し、特定のニーズを持つ客層の第一の選択肢となるための強力な戦略・手法です。
顧客ニーズの多様化と情報収集の変化も、ブランディングを重視すべきな理由の一つですです。従来の住宅展示場やチラシに頼る集客方法から、InstagramやTikTok、YouTubeなどのSNSを活用し、ブランド認知から問い合わせへと繋ぐ導線づくりが求められています。顧客が求めているのは単なる機能だけではありません。「暮らし」の価値や「温もり」「安心感」といった情緒的価値も、住宅に求められる時代になっています。
住宅業界・建築業界では慢性的な人手不足が深刻な問題となっています。技術力のある職人の確保が経営を左右する時代において、採用活動の効率化にも寄与しうるブランディングは、避けて通れない経営戦略上の課題です。
業界の成熟により、住宅の基本的なデザイン性や性能での差別化が難しくなってきている現実があります。大手ハウスメーカーと中小工務店の間で性能や設備に大きな差はなくなり、単に「高性能」や「デザイン性」を謳うだけでは差別化が困難です。そこで重要になるのが、その工務店・ハウスメーカーならではの価値観や哲学、こだわりを明確にしてブランドとして打ち出すこと。差別化の難しさという問題を打開する有効な戦略が「ブランディング」なのです。
ブランディングに真剣に取り組む工務店・ハウスメーカーは、単に売上が伸びるという直接的な効果以上のメリットを享受できます。構築されたブランドは、会社全体の体質を強くし、未来への持続的な成長を支える「資産」です。
「自社だけの価値」が見込み顧客にまではっきりと伝わるようになればば、他社と価格を比較されることが少なくなります。「高くてもこの会社にお願いしたい」と思ってもらえる可能性が高まるためです。結果として、価格競争から脱却し、適正な利益を確保しながら質の高い家づくりを提供する好循環に入れます。
「~~な家といえば、あの会社」というブランド認知が広まると、特定のニーズを持つ市場顧客に効率的にアプローチできるようになります。自社の価値を評価してくれる顧客が自然と集まってくるからです。高額な広告費を漫然と消費してしまわず、自然と名前が想起される存在となれるのはブランディング戦略を取るメリットだと言えます。
自社の想いやこだわりに共感してくれた顧客は「ファン」に変わります。ファンになってくれた見込み顧客であれば、契約に至る可能性が高いのはもちろん、将来の建て替えや知人への紹介なども期待できます。ライフタイムバリューを睨んだ顧客関係構築も、「ブランド」があればこそ可能な戦略です。
ブランドが確立されれば、不特定多数に向けた大規模な広告が原則不要に。届けたいお客様に的を絞って情報を発信できるため、無駄打ちを避けられるためです。長期的な観点から広告宣伝にかかるコストや手間を抑えられるのもブランディング戦略の魅力だと言えるでしょう。
魅力的なブランドイメージは人材採用においても大きな武器。「この会社で働きたい」と求職者たちが感じるフックになります。理念に共感した優秀な人材が集まりやすくなるので、さらに社員の定着率向上やモチベーションアップといった効果が得られることも。人材採用における効力もブランディングの見逃せないメリットです。
自社や自社の住宅商品をブランド化するには、戦略に沿った長期的な努力が必要です。5つのステップに分解して、ブランディング戦略をより深く考えていきましょう。
ブランディングを始めるにあたり、まず自社が活動する商圏・業界の全体像を把握します。自社の立ち位置を明確にするためです。
自社が活動している地域にはどのような競合他社がいるのか、その競合他社は何を「売り」にしていて、どのような顧客を狙っているのか、そして、自社にあって競合他社にない要素は何なのかといった点を抽出します。
SWOT分析(Strength:強み、Weakness:弱み、Opportunity:機会、Threat:脅威)や3C分析(Customer:市場・顧客、Competitor:競合、Company:自社)などのマーケティングフレームワークも、自社の内部環境と外部環境を詳細に分析する際のヒントになるでしょう。
顧客は「自分にとって価値がある」と感じるからこそ、特定の企業の住宅を選ぶもの。どういった人々に向けて打ち出すブランドなのか、ターゲティングを精緻化するのがステップ2です。
ブランディングの対象を明確にするために、「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」の作成が有効。
ペルソナは、たったひとりの架空の人物を設定した顧客のモデルです。年齢、性別、居住地、職業、年収、趣味、価値観、家族構成、生い立ち、休日の過ごし方、ライフスタイルなど、リアリティのある詳細な情報を設定します。
カスタマージャーニーマップは、設定したペルソナの行動や感情などを時系列順に可視化したものです。住宅検討から購入までの過程を想定し、顧客の思考や動向を調査し、それに対して自社がどのように行動すればよいかを考えます。
このマップは、顧客の購買行動パターンと自社のタッチポイント(接点)を可視化し、顧客体験の向上に役立ちます。
ターゲットが明確になったら、次に「何を伝えたいか」を考えて特に伝えたいメッセージを絞り込みます。情報詰め込みすぎると何が一番伝えたいことなのかが分かりにくくなり、結果としてターゲットには何も伝わらなくなります。そのため、情報を絞り込むステップが不可欠です。
伝えたいメッセージを決める際は、「どのような人」の「何」を「どんな風に解決」したいのかに着目して決定するのがおすすめです。住宅の機能面だけでなく、その家での「暮らし」が想像できるようなイメージ訴求ができるメッセージにするのがポイント。顧客がその機能から受ける精神的、感情的な影響、つまり「情緒的価値」を掘り下げることが顧客の心を動かすブランディングの鍵となります。
ブランディングには方向性を一定に保ち、しっかり貫くことが非常に重要です。例えば、ある住宅プランでシンプルでミニマムな暮らしを強く押し出しているのに、現場の営業担当者が派手な装飾をあれこれ提案してしまっては掲げるブランドがブレてしまいます。ダイレクトメールの内容、自社のホームページ、社員の対応など、顧客に届けるすべてのメッセージに違いが生じないよう、客観的に確認するのが大切です。
社員一人ひとりが自社のブランドを適切に理解し、同じ方向性で取り組むことで、業務上の判断基準や優先順位が統一されます。部署間の摩擦を減らし、士気を高めることにもつながるでしょう。これが「インナーブランディング」と呼ばれるものです。企業の成長には不可欠な要素とされています。
ブランディングの最終ステップはブランドプロモーションの実施です。単なるブランドの認知度アップだけでなく、住宅購入を検討している顧客の最終選考に残る住宅会社になることを目的としています。
ブランドプロモーションは、住宅の販促活動とは別に実施するのがポイントです。住宅の販促活動が具体的な購入決定を促すのに対し、ブランドプロモーションは住宅の「ブランド」をアピールするもの。顧客が最終的に選ぶ住宅会社として検討してもらうための要素を繋ぎ合わせる役割を担うのがブランドプロモーションです。
明確にした強みをメッセージと共に発信するために、ロゴ、ウェブサイト、コンセプトブック、プロモーションビデオなど、クリエイティブな表現で共感を得るための形にしていきます。
工務店・ハウスメーカーのブランディング戦略において活用をおすすめしたいのが「バーチャル展示場」です。
バーチャル展示場は、工務店・ハウスメーカーにとってブランド力を高める有効な手段。自社の設計思想や暮らしの提案を、映像や3D空間で魅力的に伝えることで、他社との差別化が可能になります。
オンラインならではの気軽さや時間・場所に縛られない利便性が、若年層や遠方の顧客にも届きやすいのもメリット。集客の幅を自然な形で広げられます。営業データの活用もでき、戦略的なブランディングが実現可能に。
展示場を「見せる場」から「語る場」へ変えることが、これからの住宅業界におけるブランディング戦略の鍵となります。
ここでは、出展後にユーザーデータをはじめとする情報を取得できると公式サイトに明記されているバーチャル展示場を課題別に紹介します。
特徴
特徴
特徴
※選定条件
2023年5月18日Googleで「バーチャル展示場」「バーチャル住宅展示場」「VR展示場」「バーチャルモデルハウス」「メタバース住宅展示場」と検索して、バーチャル展示場のプラットフォームを提供している32社のうち、取得できるデータやレポートについて明記している会社は3社のみでした。それぞれの会社をマーケティングに関するサービスの特徴別に紹介します。
LIVRA WORLD:より精度の高いリアルタイムでのユーザーデータを取得できるという特徴から紹介(取得可能データ:顧客情報、各社掲載ページの行動ログ、VRモデルハウスの全体の行動ログ)
MY HOME MARKET:コンセプト考案などの住宅商品開発の支援など、出展前の相談にも対応しているという特徴から紹介(取得可能データ:全体のサイト動向、各社月次レポート)
工務店のメタバース住宅展示場:出展後の運用をすべて委託できるという特徴から紹介(取得可能データ:毎月の運用結果)
(※2023年7月編集チーム調査時点)